《ア・ラ・カルト》  「数個」 っていくつ?

何年か前のことでした。

テレビのある番組で,国語の専門家と称する先生が, 「数個とか数人というのは, 2,3 個, 2,3 人のことです」 と言っていました。

それを聞いて,私は 「えっ,ウソっ !! 」 っと心の中で叫んでしまいました。


小学校の時か中学の時かは覚えていませんが,私は,こういう場合の 「数」 はだいたい 〈5,6〉 を意味すると教えられました。私が勝手にそう思っているのではなく,学校ではっきりとそう教えられたのです。


しかし,よくよく考えてみると,学校で教わったといっても,教科書に 「数個とは 5,6 個のこと」 と書いてあったわけではなかったように思います。何かの授業の中で, 「数個」 だか 「数人」 ということばが出てきた時に,先生が補足説明として,こういう場合の 「数○」 は,だいたいの数をいうのだけど,普通は 〈5,6〉 ぐらいのことなんだよ,と言ったように覚えています。

そうだとすると,その先生が言ったことが絶対に正しいという保障はありません。その先生の勝手な解釈だったかもしれません。それを,私も勝手に 60 年ぐらいにわたって信じてきてしまったということなのかも・・・・。


念のため,国語辞典を引いてみました。

『広辞苑』 (第六版) には, 「すう (数) 」 の見出し語の②の中で, 〈少ない数を漠然と示す語〉 とだけ説明しています。

「数回」 「数日」 の見出し語でも, 〈少ない回数を漠然という語〉 〈少ない日数を漠然という語〉 となっています。 「数」 がだいたいいくつぐらいを意味するのかを数字を示して書くことをあえて避けているような印象があります。

『大辞林』 (第三版) の方は, 「すう (数) 」 の②として, 〈いくらかの。 二,三の。 五,六の〉 と説明しています。こちらは,具体的な数字を出していますが, 〈2,3〉 と 〈5,6〉 の 2 つの概数を並記しています。


このように,国語辞典で調べてみても, 「数個」 「数人」 などの 「数」 がどのくらいの数をいうのかは,はっきりはしていないようです。


私は,上述したように,これまでは, 「数個」 と聞いたり読んだりした時は,反射的に 〈5,6 個〉 をイメージしていましたが,その 「数個」 ということばを使った方の人が 〈5,6 個〉 の意味で使ったとは限らないのです。

あるいは,私が 〈5,6 個〉 のつもりで 「数個」 と言ったり書いたりしても,それを聞いたり読んだりした人は, 〈2,3 個〉 をイメージするかもしれません。


まあ, 〈5,6 個〉 でも 〈2,3 個〉 でも,たいした違いではないじゃん,と言われれば,まあ,確かにどうでもいいことかもしれません。

いやいや,必ずしも “どうでもいい” とは言えないかもしれません。

「おい,オレ, 4 月からアメリカの支社へ転勤することになったぞ」
「えーっ !! そんな急に・・・・。 で,どのくらい向こうに行ってるの」
「うん,まだはっきりはしないが,数年はいることになるらしい」

この場合の 「数年」 が 〈2,3 年〉 と 〈5,6 年〉 では,留守をあずかる妻にとっては大きな違いでしょう。


「山本君,今日の説明会の資料を用意しておいてくれ」
「はい,何人分用意しましょうか」
「そうだな,参加申し込みは 172 人だけど,飛び入りの参加者がいるかもしれないので,予備として数 10 部余分に用意しておいてくれ」

山本君は, 「数 10 部」 を 〈2,30 部〉 と解釈して,資料を 200 部用意しました。ところが,参加者が 220 人にもなってしまい,慌ててしまいました。 係長から, 「だから数 10 部って言っただろ !! 」 と叱られてしまいました。


その程度の数のズレなら,まだいいのですが,

「ねえ,あなた,このあいだ業者さんにお願いした家の新築のことだけど,業者さんの最初の見積もりよりも数 100 万ほど余分にかかりそうだって言ってきたの。どうする?」

こういう場合の 「数 100 万円」 が 〈2,300 万円〉 と 〈5,600 万円〉 では,新築の可否にもかかわる大きな違いになります。


ことばというのは,コミュニケーションをとるための媒体です。

しかし,このような意味のあいまいなことばは,時に,コミュニケーションのズレ (行きちがい) を起こす可能性があります。

そう考えると, 「数○」 なんていう表現はしない方が無難でしょうね。


[追記]  2018.12.26

上の方で,

『広辞苑』 (第六版) には, 「すう (数) 」 の見出し語の②の中で, 〈少ない数を漠然と示す語〉 とだけ説明しています。

と書きましたが, 2018.01.12 発行の 『広辞苑』 (第七版) では,少し説明が変わって,次のようになっていました。

② (特に 「量」 と対比して使うことがある) 物がいくつあるかを表す概念。 ㋐ 沢山であること。 ㋑ 少ない数を漠然と示す語。

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この記事へのコメント

TAKE
2019年07月03日 23:04
ナッシー 様
私も最近『数~』の使い方が気になっており、興味深く読ませて頂きました。
ナッシー様と同じように私も小学生の時に『数~は5~6』『2~3を表すときは二三の』と習った事をしっかり覚えています。
私は昭和31年生まれですが、当時の世間も同じ感覚だったと思っています。
若い世代は、『数~は2~3』を意味すると理解しているらしいのですが、
おそらくは、どこかの時点で文部省の指導があったのでしょうが、共通認識を
損なう指導は困ったものだと思っています。
ナッシー
2019年07月04日 12:13
TAKE さん

コメント,ありがとうございます。

そうですか,やはり 「5,6」 と習いましたか。

私の印象としては,年配者は 「5,6」 派が多く,若い世代は 「2,3」 派が多いように感じています。

記事本文の末尾にも書きましたが,ことばというのは,コミュニケーションの道具ですから,言った (書いた) 側と,聞いた (読んだ) 側で,解釈が違うと,場合によっては大きな混乱を招きかねません。

「数個」「数人」 などに解釈のズレは,もう今となってはどうしようもないのかもしれません。誤解されると困るような場合には, 「数個」 なんて言わないで 「5,6 人」 と言ったほうが無難でしょうね。

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