語源 【くも (蜘蛛) 】
あぁ, 「くも」 ・・・・。 それは世にも恐ろしい生き物です。 ・・・・ 私にとっては !!
昭和 18 年生まれの私の幼児期は,終戦直後で,私の家も空襲にあったので,記憶にある私の家は,最初は,いわゆるパラック小屋のようなものでした。
ですから,家の中にヘビやトカゲ,其の他コオロギや,蝶の幼虫のイモムシなんかが普通にいました。
家の中の壁には,日常的に 「くも」 がはりついていました。 「くも」 といっても,糸で巣を張るようなヤツではありません。子どもの頃は名前は知りませんでしたが,後で 「アシダカグモ」 と知ったソイツは,体長はせいぜい 3 cm ぐらいなのですが,子どもの頃は,私には 7,8 cm はあるように見えました。それが足を広げて壁にへばりついていると,直径 20 cm ほどの大グモに見えたのでした。
でも,そんな大グモでも,それを恐いとは思っていなかったのです。ある事件が起きるまでは。
多分,私が 5 歳ぐらいの時だったと思います。
当時,私の家の前の道路はまだ舗装されていなくて,雨が降ると水たまりが 5 つも 6 つもできるようなデコボコの道でした。それでも一応はバス通りになっていて,まだ数は少ないですが,たまにトラックなんかも通っていました。
ある日,私は壁にじっとへばりついていた大きな 「くも」 を見つけて,その壁から 30 cm ぐらいはなれて座って,その 「くも」 をなんとはなしに眺めていました。
その頃は,何もすることがないことが多く,その日も 「くも」 を 30 分でも 1 時間でもじっと眺めていました。
家の前を大きなトラックが通りました。道路のデコボコで,トラックがドスッと窪みに落ちてバウンドしたような衝撃がありました。私の家全体が一瞬グラッと振動しました。
その振動に 「くも」 が驚いて,バッと跳ねました。
跳ねて,そのまま私の膝の上に落ちました。でも,その時でも,私は別に 「くも」 に怖さは感じませんでした。
それでも,まあ,膝の上の 「くも」 をどけようとして,手で払おうとしました。
その途端,まさにその途端でした。 「くも」 はさっきの振動よりも,私の手を 〈敵の襲撃〉 と勘違いしたのでしょう。ものすごい勢いで,こともあろうに,私の胸にはい上がってきて,さらに私の顔を長い足で覆うようにして止まったのです。
私の小さな顔に 「くも」 が被さったのです。私の目の前に,ヤツの口がありました。
私は,一瞬, 「くも」 に食べられる !! って感じました。その途端に,ものすごい恐怖が私を襲いました。
「ギャアアァァーーー !! 」
私は,恐怖に絶叫してしまいました。
それ以来,私は 「くも」 だけはダメになってしまいました。
まあ,そんな幼児期の経験談なんかどうてもいいですね。
そうです。 「くも」 の語源です。
たくさんの語源説があって,結局はよく分からないのです。
1) その虫は朝鮮語で 「クム」 (kömïi) と言い,それが日本語で 「クモ」 に音韻転訛した。
2) 「〈巣を組む〉 〈網を組む〉 虫」 ということから 「クム」 と呼ぶようになり,その 「クム」 から 「クモ」 に変化した。
3) 「スクミモリ」 (巣組守) が 「クモ」 になった。 「守」 は, 「ヤモリ (家守) 」 や 「イモリ (井守) 」 と同様の発想で, 〈守り神〉 と見なしていたのでしょう。
4) 〈巣に籠もっている〉 ところから 「コモリ」 と言っていたものが転訛して 「クモ」 になった。
5) 虫を捕まえて 〈噛む〉 ところから 「カム」 と言っていたものが転訛して 「クモ」 になった。
6) 〈奥まったところ〉 を意味する 「隈 (くま) 」 ということばがあり,山の隈から出る自然現象を 「くも (雲) 」 と言い,山の奥まった森林に棲んでいる獣を 「くま (熊) 」 と言った。それと同じ発想で,山や森の隈にいる虫を 「クモ (蜘蛛) 」 と呼んだ。
7) 「ク (組) 」 + 「モ (もち,ねばる) 」 で 〈ねばった糸で巣を組む〉 の意。
8) 足を広げたさまが雲に似ているので 「クモ」 と言った。
9) 巣が雲に似ているので 「クモ」 と言った。
などなどです。
8) や 9) などは,どこが 〈雲に似てるの?〉 と首をかしげたくもなります。
まあ,あえて是認するとすれば,木の枝と枝の間に巣をはったりすると,巣の糸は見えにくいので,クモが空中に浮かんでいるように見えることはあります。 その 〈空中に浮かんでいるよう〉 なところだけから雲と同一視したというのでしょうか・・・。それでも飛躍しすぎのように思えますが・・・。
なお, 「蜘蛛」 という漢字は,中国語の 「蜘蛛 (チチュ) 」 が日本の 「クモ」 のことなので,その漢字を借用したとのことです。
「蜘」 の 「知」 は 〈利口,頭がいい〉 を意味します。
「蛛」 の 「朱」 は 〈赤色〉 で, 捕らえた虫の赤い血をすすることを意味します。
「蜘蛛」 はほんとうに恐いので,まだ 「蜘蛛」 と知恵比べをしたことはありません。ですから, 「くも」 がほんとうに利口なのかどうか,確認していません。
でも,まあ,あんなに規則正しい巣を張るところをみると, I Q 120 以上はあるのではないかと思えます。
[追記] 2020.10.11
上に書いた 1) ~ 9) の語源説は,どれもが今ひとつしっくりこない感じでした。
それらに比べると,これから紹介する説は,なるほどと思わせるものがあります。
10) クモを巨大に膨らんだダニとみたのです。
まあ,確かに下の写真を見ると,似てるっていえば似てますよね。

その膨れたダニのことを 「コブダニ」 と言いました。
この 「コブ」 とは, 「たんこぶ」 の 「こぶ」 です。また静脈瘤は静脈のところどころが 「こぶ」 のように膨らむことです。
その 「コブダニ」 が 「コムダニ」 → 「コム」 → 「クム」 → 「クモ」 と変化してきたという説です。
バ行の音 (おん) と マ行の音との交替は珍しくありません。
「武 (ブ/ム) 」 「無 (ブ/ム) 」 「米 (ベイ/マイ) 」 「寒い (サブイ/サムイ) 」 「寂しい (サビシイ/サミシイ) 」 などに見られます。
------
** 《参考図書》 **
記号-番号 については,
《参考図書》 リスト
http://mobility-8074.at.webry.info/201606/article_35.html
を参照してください。
A-01 A-02
B-01 B-02 B-04 B-05 B-06 B-12 B-21 B-36 B-59 B-65
C-39(2) C-50 C-67
D-22
J-06
X-10 J-12
・ 朝比奈正二郎(監) 「野外観察図鑑 1 昆虫」 旺文社.
昭和 18 年生まれの私の幼児期は,終戦直後で,私の家も空襲にあったので,記憶にある私の家は,最初は,いわゆるパラック小屋のようなものでした。
ですから,家の中にヘビやトカゲ,其の他コオロギや,蝶の幼虫のイモムシなんかが普通にいました。
家の中の壁には,日常的に 「くも」 がはりついていました。 「くも」 といっても,糸で巣を張るようなヤツではありません。子どもの頃は名前は知りませんでしたが,後で 「アシダカグモ」 と知ったソイツは,体長はせいぜい 3 cm ぐらいなのですが,子どもの頃は,私には 7,8 cm はあるように見えました。それが足を広げて壁にへばりついていると,直径 20 cm ほどの大グモに見えたのでした。
でも,そんな大グモでも,それを恐いとは思っていなかったのです。ある事件が起きるまでは。
多分,私が 5 歳ぐらいの時だったと思います。
当時,私の家の前の道路はまだ舗装されていなくて,雨が降ると水たまりが 5 つも 6 つもできるようなデコボコの道でした。それでも一応はバス通りになっていて,まだ数は少ないですが,たまにトラックなんかも通っていました。
ある日,私は壁にじっとへばりついていた大きな 「くも」 を見つけて,その壁から 30 cm ぐらいはなれて座って,その 「くも」 をなんとはなしに眺めていました。
その頃は,何もすることがないことが多く,その日も 「くも」 を 30 分でも 1 時間でもじっと眺めていました。
家の前を大きなトラックが通りました。道路のデコボコで,トラックがドスッと窪みに落ちてバウンドしたような衝撃がありました。私の家全体が一瞬グラッと振動しました。
その振動に 「くも」 が驚いて,バッと跳ねました。
跳ねて,そのまま私の膝の上に落ちました。でも,その時でも,私は別に 「くも」 に怖さは感じませんでした。
それでも,まあ,膝の上の 「くも」 をどけようとして,手で払おうとしました。
その途端,まさにその途端でした。 「くも」 はさっきの振動よりも,私の手を 〈敵の襲撃〉 と勘違いしたのでしょう。ものすごい勢いで,こともあろうに,私の胸にはい上がってきて,さらに私の顔を長い足で覆うようにして止まったのです。
私の小さな顔に 「くも」 が被さったのです。私の目の前に,ヤツの口がありました。
私は,一瞬, 「くも」 に食べられる !! って感じました。その途端に,ものすごい恐怖が私を襲いました。
「ギャアアァァーーー !! 」
私は,恐怖に絶叫してしまいました。
それ以来,私は 「くも」 だけはダメになってしまいました。
まあ,そんな幼児期の経験談なんかどうてもいいですね。
そうです。 「くも」 の語源です。
たくさんの語源説があって,結局はよく分からないのです。
1) その虫は朝鮮語で 「クム」 (kömïi) と言い,それが日本語で 「クモ」 に音韻転訛した。
2) 「〈巣を組む〉 〈網を組む〉 虫」 ということから 「クム」 と呼ぶようになり,その 「クム」 から 「クモ」 に変化した。
3) 「スクミモリ」 (巣組守) が 「クモ」 になった。 「守」 は, 「ヤモリ (家守) 」 や 「イモリ (井守) 」 と同様の発想で, 〈守り神〉 と見なしていたのでしょう。
4) 〈巣に籠もっている〉 ところから 「コモリ」 と言っていたものが転訛して 「クモ」 になった。
5) 虫を捕まえて 〈噛む〉 ところから 「カム」 と言っていたものが転訛して 「クモ」 になった。
6) 〈奥まったところ〉 を意味する 「隈 (くま) 」 ということばがあり,山の隈から出る自然現象を 「くも (雲) 」 と言い,山の奥まった森林に棲んでいる獣を 「くま (熊) 」 と言った。それと同じ発想で,山や森の隈にいる虫を 「クモ (蜘蛛) 」 と呼んだ。
7) 「ク (組) 」 + 「モ (もち,ねばる) 」 で 〈ねばった糸で巣を組む〉 の意。
8) 足を広げたさまが雲に似ているので 「クモ」 と言った。
9) 巣が雲に似ているので 「クモ」 と言った。
などなどです。
8) や 9) などは,どこが 〈雲に似てるの?〉 と首をかしげたくもなります。
まあ,あえて是認するとすれば,木の枝と枝の間に巣をはったりすると,巣の糸は見えにくいので,クモが空中に浮かんでいるように見えることはあります。 その 〈空中に浮かんでいるよう〉 なところだけから雲と同一視したというのでしょうか・・・。それでも飛躍しすぎのように思えますが・・・。
なお, 「蜘蛛」 という漢字は,中国語の 「蜘蛛 (チチュ) 」 が日本の 「クモ」 のことなので,その漢字を借用したとのことです。
「蜘」 の 「知」 は 〈利口,頭がいい〉 を意味します。
「蛛」 の 「朱」 は 〈赤色〉 で, 捕らえた虫の赤い血をすすることを意味します。
「蜘蛛」 はほんとうに恐いので,まだ 「蜘蛛」 と知恵比べをしたことはありません。ですから, 「くも」 がほんとうに利口なのかどうか,確認していません。
でも,まあ,あんなに規則正しい巣を張るところをみると, I Q 120 以上はあるのではないかと思えます。
[追記] 2020.10.11
上に書いた 1) ~ 9) の語源説は,どれもが今ひとつしっくりこない感じでした。
それらに比べると,これから紹介する説は,なるほどと思わせるものがあります。
10) クモを巨大に膨らんだダニとみたのです。
まあ,確かに下の写真を見ると,似てるっていえば似てますよね。

その膨れたダニのことを 「コブダニ」 と言いました。
この 「コブ」 とは, 「たんこぶ」 の 「こぶ」 です。また静脈瘤は静脈のところどころが 「こぶ」 のように膨らむことです。
その 「コブダニ」 が 「コムダニ」 → 「コム」 → 「クム」 → 「クモ」 と変化してきたという説です。
バ行の音 (おん) と マ行の音との交替は珍しくありません。
「武 (ブ/ム) 」 「無 (ブ/ム) 」 「米 (ベイ/マイ) 」 「寒い (サブイ/サムイ) 」 「寂しい (サビシイ/サミシイ) 」 などに見られます。
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** 《参考図書》 **
記号-番号 については,
《参考図書》 リスト
http://mobility-8074.at.webry.info/201606/article_35.html
を参照してください。
A-01 A-02
B-01 B-02 B-04 B-05 B-06 B-12 B-21 B-36 B-59 B-65
C-39(2) C-50 C-67
D-22
J-06
X-10 J-12
・ 朝比奈正二郎(監) 「野外観察図鑑 1 昆虫」 旺文社.
この記事へのコメント
あのグロテスクな見かけとは逆に潰れやすい体が不気味でなりません。神様はどうしてあんな醜い、不気味な生き物を作ったのでしょう。だから、よく似た蟹も見かけは恐ろしいけど美味しいので、我慢しています。
コメントありがとうございます。
そうですか,やはり,ちょっとした出来事でも,子どもの頃に経験した恐ろしさや気味悪さは,大人になってもいつまでもトラウマになって残りますよね。
でも,クモが苦手の仲間ができたみたいで心強いです。
たしかに,クモも体がクワガタやカブトムシみたいに硬ければ,それほど恐くないかもしれませんね。
現在の家には,越してきてそろそろ10年になりますが,幸い,大きなアシダカグモにはまだご対面していません。できれば,残り少ない私の寿命を脅かさないでほしいものです。