語源 【釣瓶 (つるべ) / つるべ落とし】

私が大学の教員をしていたのは,教育学部の盲学校教員養成課程でした。

専門の授業の一つとして,学生たちに点字の読み・書きを教えていました。

一通りの 50 音を教えたあと,文章の点訳に入る前に,単語の練習をします。

点字の領域の専門用語に 「すみ字 (墨字) 」 というのがあります。点字に対して,普通,一般の人 (目の見える人) が使っている文字のことです。

で,その単語の練習も,すみ字を点字にする練習と,点字をすみ字にする練習をさせていました。

点字には,漢字はありませんので,すべて 「かな」 で表記します。

点字をすみ字に訳させる練習問題の中に 「ツルベ」 という単語を出したことがありました。

学生たちの 7 割ぐらいが 「鶴瓶」 と訳していました。なるほどねえ・・・・・。 「井戸」 というものが遺跡となってしまった現代では,若い世代の人たちが 「釣瓶」 を知らないのは仕方のないことでした。

でも, 「朝顔につるべ取られてもらひ水」 の加賀千代女の句なんか,朝顔と笑福亭鶴瓶をどうイメージするんでしょうかね・・・・。


「つるべ (釣瓶) 」 の 「瓶」 は,普通は花瓶やビール瓶などに使われるように 「びん」 ですが,昔は 「瓶」 は 「かめ」 でした。あの,汲んだ水を溜めておく 「かめ」 です。

平安時代あたりまでは,井戸の水を汲み上げるには,土器の瓶 (かめ) に長い縄を縛りつけて,井戸の中に落として水を入れ,それを引っ張り上げていたのです。

実際には,井戸の上に滑車を設置して,釣り上げていました。

つまり, 「釣瓶」 とは 〈釣り下げた瓶〉 の意味です。

でも,やはり,瓶 (かめ) だけでもけっこうの重さがあり,それに水が入ると,それを引っ張り上げるのには相当の力が要ったことと思います。それに,土器ですから,割れやすいこともあったと思います。

そんなこともあって,土器の瓶 (かめ) は,次第に木の桶に取って替わられていきました。

しかし,多くのことばがそうであるように,いったん普及してしまったことばというのは,その実態が変化して表記としてそぐわなくなっても,そのまま古い表記が生き続けてしまうものです。 「つるべ」 も 「釣桶」 とはならずに 「釣瓶」 のままで受け継がれてきました。

井戸と釣瓶.jpg

「つるべ」 の語源については,もう一つの別説があります。

昔,水を汲むための用具として瓢箪 (ひょうたん) がよく使われました。その瓢箪のことを 「つぶれ」 と言いました。 「つぶれ」 は, 〈円いもの〉 を意味する 「つぶら」 からの転訛です。

で,井戸というものができた時に,そこで水を汲むための瓶 (かめ) と,瓢箪の 「つぶれ」 のイメージが重なって 「釣る瓶 (つるべ) 」 という名称がつくられたというのです。


なお,古語辞典に 「つぶり」 という見出し語が載っていて, 〈水に落ち込む音の形容。すぶっ。どぶん〉 という意味になっています。

この 「つぶり」 と 「つるべ」 は関係があるのではないか,と思ったのですが,このことについては,どの参考図書にも触れられていませんでした。


ところで,秋になって,太陽が西の空に傾くと,あっという間に山や地平線に沈んでいきます。その様子を 「つるべ落とし」 と言います。

まさに,井戸に釣瓶を落とす時の,あの猛烈なスピードで落ちていく様子に例えた文学的な表現ですが,これも,まさか,現代の若者は,笑福亭鶴瓶をバンジージャンプで突き落とすこと,なんて解釈したりして・・・・・。

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** 《参考図書》 **

記号-番号 については,

《参考図書》 リスト
http://mobility-8074.at.webry.info/201606/article_35.html

を参照してください。

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