語源 【坊主】

ことばというのは,そのことばの本来の意味からすると上品なことば,優雅なことば,丁寧なことばだったものが,使われているうちに,その上品さ,優雅さ,丁寧さが色あせ,薄れていってしまうことが,往々にしてあります。

夫や妻が,自分の配偶者のことを 「ウチの女房」 「ウチの旦那」 と言ったりすると,現代の社会では,かなりぞんざいな言い方をしているように受け取られます。

しかし, 「女房」 も 「旦那」 も,本来はその人を敬って言うことば,つまり尊称でした。どちらも,特別の女性,特別の男性を言うことばでした。それが, 「女房」 や 「旦那」 ということばの適用対象がどんどん広がるにつれて,そのことばに備わっている高級感が薄らいでしまい,上品なことば,丁寧なことばではなくなってしまいました。


「坊主」 も同じような運命のことばといえるでしょう。


まず 「坊」 ですが,これは 「防」 と同じで,本来の意味は水を防ぐ堤防のことでした。そこから転じて,奈良時代 ・ 平安時代には,四方を大路で囲まれた区画のことを 「坊」 と言いました。

また,インドでは,仏教の修行者たちが集まって共同生活している場所をヴィハーラ (vihara) と呼んでいましたが,これを漢訳する時に, 〈僧院として区画された所〉 ということから 「僧坊」 と訳されました。

それに影響されて,日本でも,寺院のある区域を 「僧坊」 とか 「寺坊」 と呼ぶようになりました。

インドのヴィハーラの中の,一人ひとりの修行者が生活する小さな舎あるいは一室をラヤナ (layana) またはクティー (kuti) といいましたが,これは 「房舎」 とか 「房」 と漢訳されました。

これも,日本では 「房 (ぼう) 」 と呼ぶようになりました。


その 「房」 の住人が 〈房の主 (あるじ) 〉 という意味で 「房主 (ぼうず) 」 と呼ばれるようになりました。

まあ, 「房」 も 「坊」 も似たような意味で,しかも音 (おん) もどちらも 「ぼう」 だったこともあって,そのうちに 「房主」 と 「坊主」 が混用され,やがて 「坊主」 の方が優勢になったといういきさつのようです。

ということですから, 「坊主」 は 〈寺の一番の主である住職〉 のことです。

寺によっては,何人かの僧侶がいることもありますが,その中で 「坊主」 は 〈一番偉い僧侶〉 ということになります。

駿河国 (現在の静岡県中央部) では,永禄 4 年に,当時の城主の今川氏真 (うじざね) が 「坊主は一坊の主となるものであり,本寺の許可なしに勝手に坊主と称することを禁ずる」 旨の令を出していました。


ところが,室町時代になって,いつの間にか,一般の僧侶にも 「坊主」 ということばが使われるようになりました。

つまり,僧侶は誰もみんな 「坊主」 と言われるようになったわけです。

さあ,そうなると,僧侶はピンからキリまでいろいろな者がいますから,なかには仕事をサボる者,まともにお経も唱えられない者,酒色におぼれたり,乱暴を働く者などもいました。

そういった 〈危ない〉 僧侶も 「坊主」 と言われたわけですから, 「坊主」 ということばの品格なり威厳なりもかなり落ちてしまいました。

ついには, 「生臭坊主」 「乞食坊主」 「たこ坊主」 なんていうことばも生まれてしまいました。


まあ,もっとも,本来の 「坊主」 ということばが使われる以前には,僧侶の敬称は 「法師」 でした。

その 「法師」 も奈良時代の頃までは権威のある尊称だったのですが,平安時代になって,比叡山延暦寺の武力隊としての僧を 「山法師」 と言ったり,また物乞いをして歩く僧を 「乞食法師」 と言うなど, 「法師」 の印象が悪くなってきたので, 「法師」 ということばを使うのをやめて 「坊主」 にしたのでした。

その,せっかくの 「坊主」 も 〈軽蔑語〉 になってしまうのですから,ことばというのはなんとも難しいものです。


なお,僧侶である 「坊主」 は,一般には髪を剃っていましたので,僧でなくても一般に男の幼児も頭を剃ったり,短く刈り上げたりしていたことから,そのような頭を 「坊主頭」 と言い,またそこから 〈男の子〉 のことも 「坊主」 と言うようになりました。


昭和 18 年生まれの私も,小学 4 年生まで坊主頭でした。 5,6 年生で一度髪を伸ばしましたが,中学から高校 2 年生までは,また坊主頭でした。


《参考》

語源 「女房

語源 「旦那

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** 《参考図書》 **

記号-番号 については,

《参考図書》 リスト
http://mobility-8074.at.webry.info/201606/article_35.html

を参照してください。

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