語源 【ヤニ下がる】

あの野郎,185 センチのイケメンとあって,女の子たちからチヤホヤされてヤニ下がってやがるけど,まあ知性のカケラもないから,どうせすぐに女の子からソッポを向かれることになるさ。そん時のあの野郎の顔が見てえもんだ。


今は, 「ヤニ下がる」 は,上の例文のように, 〈いい気になって,得意げにニヤニヤする〉 意味に用いられることが多いようですが,本来は 〈高慢な態度をとる〉 〈得意になる〉 〈気取った態度やポーズを見せる〉 という意味はあっても, 〈ニヤニヤする〉 〈にやける〉 の意味はなかったのです。


この 「ヤニ下がる」 ということばは江戸時代に生まれたことばで,古語辞典にも載っています。

現代人が吸っているタバコのほとんどは紙巻きタバコです。
私も, 2 年前 (2015 年) に脳梗塞を患うまではタバコを吸っていました。 50 代後半から 60 代の初めの期間が最も多く吸っていた時期で, 1 日 60 本以上吸っていました。

その当時は, 「メビウス」 という銘柄でした。これは,昔 「セブンスター」 というもので,その後 「マイルドセブン」 → 「メビウス」 と名前が変わってきたヤツです。

しかし,こういった紙巻きタバコは,江戸時代以前は日本にはなかったものです。
その昔は,タバコといえば 「刻みタバコ」 を 「キセル (煙管) 」 で吸うのが普通でした。

まあ,今の洋風の 「パイプ」 と構造的には類似のものといっていいでしょう。

キセルは,基本的には下の図のように, 「雁首 (がんくび) 」 「羅宇 (らお) 」 「吸い口」 の 3 つの部品から成っています。

その 「雁首」 の口に 「刻みタバコ」 を一つまみ詰めて,火をつけて吸います。

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煙管でタバコを吸う吸い方は,別に決まっているわけではありませんが,まあ,普通は上の写真のように,煙管がほぼ水平になるように手に持って吸います。

ところが,中には下の図のように,雁首を上の方へ向けて斜めに煙管をくわえて吸う人もいました。

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まあ,どちらかといえば大きな商家の若旦那で遊び人みたいなのが格好をつけて,普通の人とは違ったやり方をしたがるわけです。

その格好が,はたから見ると,キザに気取っている風に見えたり,生意気に威張っているように見えたりします。

ところが,この吸い方には大きな問題があるのです。

タバコにはヤニが付きものです。これは,現代の紙巻きタバコでも,昔の煙管でも同じです。

紙巻きタバコは現在のものは,よほどの例外を除けばフィルターが付いています。

吸い終わって,フィルターの口の部分を見ると,吸う前は白かった吸い口のところが,ヤニで茶色になっています。

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煙管の吸い口には特にフィルターに相当するようなものは付いていませんので,吸い口の細い管の内部にヤニが付着していきます。ですから,定期的にそのヤニ掃除をする必要があります。

ところが,雁首を上に向けて煙管を斜めにして吸ったりすると,付着したヤニがドロドロとだんだん下に降りてきて,そのうちに吸い口の先端からヤニがトロッと口の中へ流れ込んできます。

私は若い頃に,下の写真のような簡易パイプを使ったことがありました。普通の紙巻きタバコを差し込んで使うタイプのものですが,まだその頃は,定期的に手入れをしなければならないということを知らなかったので,掃除もしないで使っていたら,そのうちに,吸い口の小さな穴から口の中へトロッとヤニが落ちました。

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まずいとかそういう表現以前に,なんともいえない変な気もちのわるい味でした。

ですから,同じように煙管を斜めにして吸ったりしていたら,そのヤニが口に落ちてくるわけですが, “キザな格好つけ” のためには,そんなことは我慢したんでしょう。 ・・・・ まあ,江戸時代には,まだ肺ガンとか,健康的にどうのこうのなんてことは考えなかったんでしょう。


なお,この煙管のくわえ方については,雁首を上に向けるのではなく,雁首をダラッと下にぶら下げるようにしてくわえることからきたと書いている参考図書も何冊かありました。

もしそうだとすると,ヤニは雁首のところに溜まることになります。まあ,それでもヤニは下がったことになりますが,それだと自分の口にヤニが流れ込むのと違って,特段に 〈ヤニが下がった〉 ことを意識する必要がありません。

それが 「ヤニ下がる」 ということばの元になるというのはちょっと考えにくいように思います。


というわけで, 「ヤニ下がる」 は, 〈威張った態度をとる〉 〈キザな格好をつける〉 というのが本来の意味だったのですが,明治時代以降に,多分, 「ヤニ」 という音 (おん) が似ていることから 〈ニヤニヤする〉 という意味が付加されてしまったのではないでしょうか。

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** 《参考図書》 **

記号-番号 については,

《参考図書》 リスト
http://mobility-8074.at.webry.info/201606/article_35.html

を参照してください。

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